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しょうひんよっつ
中勘助随筆集
中 勘助
線上閱讀中 勘助《中勘助随筆集(しょうひんよっつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,694 字 · 32 頁
母の死
これらの断片は昭和九年九月の初旬母が重態に陥ったときから十月の初旬その最後のときまでのあいだに書かれたものである。
断片。この愛別離苦のうちから私が人人におくる贈り物は「律法を妄りに人情の自然のうえにおくな」という忠告である。私どもは世の親と子があるように、はたあるべきようにお互に心から愛しあっていながら、すくなくとも私のほうではよくそれを承知していながら真にうち解けて馴れ親しむことができず、いつも一枚のガラスを隔てて眺めてるような趣があった、そこには律法のほかに別にまたいろいろ錯雑した理由、原因もあっただろうけれども。
今夜私は連日のみとりに疲れた人たちを休ませ、看護婦さんとふたりで夜どおし母のそばについていた。きのうの脈搏不整からきょうの結滞。浮腫、チアノーゼ。力弱く数の少い呼吸が見てるうちにときどきとまる。看護婦さんが軽く胸をたたく。と、息を吹きかえす。母は麻酔剤のために些の苦痛もなく眠りつづけてはいるが、それは母という特殊の意味で親しい肉体を戦場としての生と死との最後の戦いであり、力つきた生が今しも打ち倒されようとする瀬戸際である。その音もなく形もない凄じい戦いを極度に澄明な、静寂な、胸に充満しながらどこまでもひろがってゆくような感慨をもって凝然と、また茫然と眺めつくしている。