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『ケプロン・くろだのこうそう』について
中谷宇吉郎集 第八巻
中谷 宇吉郎
線上閱讀中谷 宇吉郎《中谷宇吉郎集 第八巻(『ケプロン・くろだのこうそう』について)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 85,890 字 · 178 頁
その方たちと、ほとんどまる一日自動車を走らせたが、到るところで、若き日の寅彦の像が、この人たちの頭の中に蘇って来るのに、むしろ驚嘆の念を禁じ得なかった。
高知城の石垣のほとりには『花物語』の昼顔が今日もやはり咲いている。小学生の寅彦が「母にねだって蚊帳の破れたので作って貰った」捕虫網を肩にして、この城山の奥の、苔むした石段を下って来る。常山木の幹でとらえた見事な甲虫はいかめしい角を立てて虫籠の中にいる。そして美しい蝙蝠傘をさした母子に会うのは、この石段の下である。
街を一歩出ると、青田がずっとつづいている。そこには、寅彦の幼時の夢を破った虫送りの太鼓の音が、今は消えている。ただ「冬夜の田園詩」に民族的記憶の名残を止めた「キータヤーマ・ヤーケタ」の北山だけが、その向うに、昔ながらの姿を見せている。
「竜舌蘭」の家も、今は全く昔の面影もないそうである。唯一つ残っているものは、病身の寅彦が「体が段々落ちて行くような何とも知れず心細い気が」して眺めた「天井に吊るした金銀色の蠅除け玉」だけである。しかし寅彦を愛する人たちには、この蠅除け玉が一つ、昔のままに天井から吊り下がって居れば、それですべてが残存しているのである。