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ふたつのにわ
二つの庭
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《二つの庭(ふたつのにわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 頁
「ああ、おつまはんから手紙が来ているよ」
その室の角に置いてある洋風の大テーブルから、しゃれた手すきの封筒をもって来た。
「みてごらんよ」
伸子は、それを手にとらず、
「何だって?」
ときいた。
「近いうちに東京へ来るんだってさ。少しゆっくり滞在するから、是非遊びによらせて頂くとさ」
「ここへ泊るのかしら」
伸子は、困ったようにきいた。おつまはん、というのは祗園のある家の女将であった。ずっと前から素子とはかなり立ち入った友達つき合いで、前の年の早春二人がゆっくり関西旅行をしたとき、素子はこのおつまはんの斡旋で高台寺の粋な家を宿にした。その宿へは素子の従弟に当る縮緬問屋の若主人だの、里栄、桃龍だのという賑やかな人たちが毎日出入りした。伸子は、相変らずの学生っぽい白襟のなりで、自分一人だけの東京弁を居心地わるく感じながら、はにかんで、色彩の入り乱れたその仲間に坐っていた。素子は、小説を書こうという人間が、何さ! と、屋台の寿司を食べたことのなかった伸子を、そういうなかに引き入れるのであった。伸子は、それを口ぐせに自分が育てられた道徳論を肯定していなかった。女にあてはめられる生活の常識にも本能的に抵抗していた。