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しつらくえんさつじんじけん

二十世紀鉄仮面

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《二十世紀鉄仮面(しつらくえんさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 38,489 字 · 77 頁

青空文庫

所が、翌朝熊城は力のない顔をして法水を訪れた。

「いま朔郎を放免した所なんだよ。彼奴に不在証明が現われたんだ。朔郎の室の垣向うが、久八の家の台所になっているだろう。八時半頃其処で立ち働いていた久八の孫娘が、朔郎が時計を直している音を聴いたと云うのだ。最初に八時を打たせて、それから半を鳴らせたので、自分の家の時計を見ると、恰度八時三十二分だったと云う。そこで、朔郎を訊して見ると、彼奴は迂闊していたと云って、躍り上った始末だ。勿論些細な点に至るまで、ピッタリ符合しているんだ。法水君、昨日朔郎の室の時計が二分遅んでいたのを憶えているだろう。そして、あの様に重い沈んだ音を出す時計と云うのが、寺には一つもないのだからね」

然し、法水のどんより充血した眼を見ると、夜を徹した思索が如何に凄烈を極めていたか――想像されるのだが、そうして熊城の話を聴き終ると、その眼が俄かに爛々たる光を帯びて来た。

「そうかい。すると、遂々劫楽寺事件の終篇を書ける訳だな。実は、朔郎に不在証明が出るのを待っていたのだよ。ああ、それを聴いたら急に眠くなって来た。済まないが熊城君、今日は此れで帰ってくれ給え」