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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

線上閱讀壺井 栄《二十四の瞳(にじゅうしのひとみ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。

N3 · 進階 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 頁

青空文庫

「しっ、人がきいたら、気ちがいとおもう」

奥さんはびっくりして手をふった。

そして、いよいよあくる日、唱歌の時間がきても、生徒はのろのろと教室にはいった。どうせ、今日もまた、オルガンなしに歌わされるのだと思って、はこぶ足もかるくなかったのだろう。小石先生だと、土曜日の二時間目が終ると、そのままひとり教室にのこって、オルガンを鳴らしていたし、三時間目の板木が鳴るとともに行進曲にかわり、みんなの足どりをひとりでに浮き立たせて、しぜんに教室へみちびいていた。どんなにそれがたのしかったことか、みんな、心のどこかにそれを知っていた。口ではいえない、それはうれしさであった。だから、小石先生がこなくなった今、口ではいえないものたりなさが、みんなの心のどっかにあった。それを、気づくというほどでなく、みんなには気づいていたのだ。

「先生は聞き役しとるから、みんなすきな歌うたえ」

オルガンなど見向きもせずに、男先生はそういうのだ。歌えといわれても、オルガンが鳴らぬと歌はすぐには出てこなかった。出てきても調子っぱずれだったりする。

ところが、今日は少しちがう。教室にはいると男先生はもう、オルガンの前にちゃんと腰かけてまっていた。