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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

線上閱讀壺井 栄《二十四の瞳(にじゅうしのひとみ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。

N3 · 進階 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 頁

青空文庫

しかし松江は、どうしてもほしかったのだ。ここで柳行李をうけいれたら、いつまでたっても百合の花の弁当箱は買ってもらえまいということを、松江は感じて、ごねつづけ、とうとう泣きだしたのである。しかし母親もなかなかまけなかった。

「不景気なんだから、ちっとがまんしい。来月になって、景気がよかったら、ほんまに買おうじゃないか。なあ、マツはいちばん大きいから、もっと聞き分けいでどうすりゃ」

それでも松江はしくしく泣いていた。いつやむともしれないほど、しんねり泣きつづけるのは、よほどの思いにちがいない。そのままつづけばいつやむともしれぬ泣きぶりであったが、やがて、泣くどころではないことがおこった。彼女の母は、きりっとした声でいった。

「マツ、弁当箱はきっと買うてやる。指きりしてもええ。そのかわりおまえ、産婆さんとこへ、ひとっ走りいってきてくれや。大急ぎできてつかあされ、いうてな。行きしなに、よろずやのばあやんにも、ちょっときてもろてくれ。こんなはずないんじゃけんど、おかしいな」

あとのほうはひとり言のようにいって、納戸にふとんをしきだした母親を見ると、さすがに松江も泣きやみあわてて家をとびだした。