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にんげんさんすいずまき

人間山水図巻

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《人間山水図巻(にんげんさんすいずまき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,343 字 · 21 頁

青空文庫

それを、描けるとか描けないとか、まず後天的な智恵を以て自分を批判し去ってしまうから描くべき性能を出し得ないまでのものである。――もしほんとに眠っているよい本能をゆり起して、素直にそれを現わす精進をするならば、反対な悪の本能をよびさますように、それも必ず磨き出されずにはいない。悪をふるい起すほどな善性の屈伏力を以て、善のために悪を抑止するの忍耐をもったなら――もちろんその理性の堅持はやさしくはないが、ひとり画道にかぎらず何らか人生の明るい彼岸に達しられないはずはない。――とわしはそう思うがと、老画師はいちど語を切って、静に、風炉の上の瓶から茶を注いで、蕭照にも与え、

『実をいえばな、こう見えるわしにだって、折々には、決してよい料簡ばかりが起りはせぬ。この年になっても、旅路に飢えたときにでもなると、ふとおぬしと同じような人間になる一瞬もある』

蕭照はそういう老画師の面を穴のあくほど見た。この人にしてもそんな心になる折もあるのかと疑った。またそれをかりにも行為の上に出さずに来た人間の心がけによる美しい姿というものを初めて知った。寺の木像は割って薪にしても、今の悔恨とはしないけれど、この人を一度でも裸にして脅した罪は怖ろしいと思われてきた。