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こんにちのせいかつとぶんかのもんだい
今日の生活と文化の問題
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《今日の生活と文化の問題(こんにちのせいかつとぶんかのもんだい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,545 字 · 19 頁
私たちの身近に今行われていることから実例をとって考える。昨今の工場では労務課がいろいろ苦心して講習会をやるが、その一つで詩吟の会だの剣舞の会だのというのがある。この間或る婦人雑誌で、百貨店の婦人店員たちが仕舞の稽古をしている写真も見た。
詩吟というものは、ずっと昔も一部の人は好んだろうが、特に幕末から明治の初頭にかけて、当時の血気壮な青年たちが、崩れゆく過去の生活と波瀾の間に未だ形をととのえない近代日本の社会の出生を待つ時期の感懐を吐露するてだてとして流行したものであった。その時分には、漢文が武士階級の男子の教養の基本であった。しかも政治の激動期に、朱子学が或る役割を持っていたことなどから、漢詩が伝統の文学の形式から、直接の日常の感情表現の手段となって行った。明治維新というものがその一面に下級武士の大きい力のあらわれをもっているという事実が、こういう点にも見られるのである。従って詩吟という一つの朗吟法が持っているメロディーは非常に緊迫した悲愴の味であり、テムポから云えば当然昔の武士が腰に大小を挾み、袴の裾をさばきながら、体を左右に大きく振り頭を擡げてゆっくり歩きながら吟じられるように出来ている。