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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《似而非物語(えせものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 頁

青空文庫

十

もうそろそろ起こるじぶんだによ、なにかが、……思いがけねえような事がよ。

そのとき太鼓がとうとうと鳴りだした。

十

太鼓は試合を始める合図であった。しかし杢助の期待するような事はなにも起こらなかった、ばかりでなく、試合をする相手が、こっちへ向って来るのを杢助は認めた。

その男は巨漢という感じだった。すべてが大づくりであった、髭だらけの顔も大きく、眼口鼻も大きかった。躯は岩のように巨大であり、筋肉が瘤になってもりあがっていた。なんというものかお神楽に使う衣装のような、きらきら光る派手な着物に襷をかけ、同じように派手な袴の股立をしぼり、足には武者草鞋をはいていた。鉢巻にもきれいな象眼のある向う金具が付いていて、それがきらきらと日光を反射した。ぜんたいが光り輝くようで、しかも重量感に満ち、圧倒的な、烈火のような闘志が溢れていた。

――大豪傑だ。

と杢助は思った。これが岩見重太夫だ。

慥かに、それは岩見重太夫であり、天下無双の大豪傑であった。杢助は身ぶるいをした、杢助は救いを求めるように四方を見まわした。が、依然としてなに事も起こらなかった。重太夫はなにか叫んだ、口が耳まで裂けたようだった、まっ黒な髭の中から白い歯が見え、その叫び声は杢助の耳をがんと撲りつけた。