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えせものがたり

似而非物語

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《似而非物語(えせものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 31,817 字 · 64 頁

青空文庫

二

「そうよ、おらこのとおり杢助よ」

「するとおぬしゃ、帰って来ただな」

「おら帰って来たのよ」

老人は萱笠を持った手をゆらりと振った。

「帰って来たくなったでよ、それでまあ、……帰って来たのよ」

弥市は下唇をだらっと垂らし、それを手で擦った。それからひどく慌てて、なにやら叫びながら、あたふたと石段を駈けおりていった。

二

杢助は牛窪村で生れた。百助という農夫の一人息子で、母親の名はことといった。彼は生れつきのずぬけた怠け者であった。ごく幼いじぶんから、食うのと寝るほかはなんにもしなかった。

牛窪村は深い谷の底にあるので、田畑を作るには村の外へ出なければならなかった。峡谷を挾んでそそり立つ山岳の、高いところでは千尺以上も登ってゆき、傾斜のゆるい地面を求めてまず小屋を建て、「薙畑」という原始的なやり方で耕作をする。かれらは春さき雪のあるうちに村を出て、耕作するあいだはずっとその小屋で暮し、秋になって、雪のくるまえに、収穫を持って村へ帰るのであった。ときには十里も二十里も遠くでかけるが、これは牛窪の「出作り」といって古くからかなりひろく知られていた。こういうわけで、村人はみな勤勉であった。