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さくひんのしゅじんこうとしんりのかげ

作品の主人公と心理の翳

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《作品の主人公と心理の翳(さくひんのしゅじんこうとしんりのかげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,505 字 · 6 頁

青空文庫

その父の仕事を支持しながら、そのやりかたには、人間的に反撥する荘太郎を中心においたとしたら、この一篇の小説が、どう変化しただろう。先ずこの小説がもっとずっと書きにくくなり、まとまりにくくなることは必定である。主人公が父平助でなくて息子荘太郎であるということからは、作者が平助の側からその心理を叙しているよりもさらに描写に骨の折れる動的な葛藤、摩擦、若き精神の懊悩が小説の世界へ溢れでてくる。悲劇の最後で、失われる命が父平助のものであるにしろ、他のものたちのものであるにしろ、荘太郎がその小説で主人公であるとそうでないとでは全くちがうし、まして荘太郎の生命が直接そこにかかわるなら、悲劇の性格は一層の奥ゆきを持たざるを得ないであろう。

作者はテーマのこのような二重の展開の可能のかくされている若き荘太郎を主人公とすることをさけた。或は避けたという気もなくておのずから主人公は自身の悲劇に対してより受け身な平助にきめられて行ったとすれば、それとして心理の動機はどういうものなのだろうか。

丹羽氏の場合、私たちの記憶には「或る女の半生」その他のいわゆる系譜的作品の主人公を常に女性において来たこの作者の現実への角度が甦って来る。