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ちゅうとう

偸盗

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《偸盗(ちゅうとう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 48,934 字 · 97 頁

青空文庫

その醜い、片目のおれが、今まで沙金の心を捕えていたとすれば、(これも、おれのうぬぼれだろうか。)それはおれの魂の力に相違ない。そうして、その魂は、同じ親から生まれた弟も、おれに変わりなく持っている。しかも、弟は、たれの目にもおれよりはうつくしい。そういう次郎に、沙金が心をひかれるのは、もとより理の当然である。その上また、次郎のほうでも、おれにひきくらべて考えれば、到底あの女の誘惑に、勝てようとは思われない。いや、おれは、始終おれの醜い顔を恥じている。そうして、たいていの情事には、おのずからひかえ目になっている。それでさえ、沙金には、気違いのように、恋をした。まして、自分の美しさを知っている次郎が、どうして、あの女の見せる媚びを、返さずにいられよう。――

こう思えば、次郎と沙金とが、近づくようになるのは、無理もない。が、無理がないだけ、それだけ、おれには苦痛である。弟は、沙金をおれから奪おうとする。――それも、沙金の全部を、おれから奪おうとする。いつかは、そうして必ず。ああ、おれの失うのは、ひとり沙金ばかりではない。弟もいっしょに失うのだ。そうして、そのかわりに、次郎と言う名の敵ができる。