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ちゅうとう
偸盗
線上閱讀芥川 竜之介《偸盗(ちゅうとう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 48,934 字 · 97 頁
煤のようなものが、ひらひらと月にひるがえって、甍の下から、窓の外をうす青い空へ上がった。言うまでもなく蝙蝠である。阿濃は、その空へ目をやって、まばらな星に、うっとりとながめ入った。――するとまたひとしきり、腹の子が、身動きをする。彼女は急に耳をすますようにして、その身動きに気をつけた。彼女の心が、人間の苦しみをのがれようとして、もがくように、腹の子はまた、人間の苦しみを嘗めに来ようとして、もがいている。が、阿濃は、そんな事は考えない。ただ、母になるという喜びだけが、そうして、また、自分も母になれるという喜びだけが、この凌霄花のにおいのように、さっきから彼女の心をいっぱいにしているからである。
そのうちに、彼女はふと、胎児が動くのは、眠れないからではないかと思いだした。事によると、眠られないあまりに、小さな手や足を動かして、泣いてでもいるのかもしれない。「坊やはいい子だね。おとなしく、ねんねしておいで、今にじき夜が明けるよ。」――彼女は、こう胎児にささやいた。が、腹の中の身動きは、やみそうで、容易にやまない。そのうちに痛みさえ、どうやら少しずつ加わって来る。