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ちゅうとう

偸盗

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《偸盗(ちゅうとう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 48,934 字 · 97 頁

青空文庫

「何がうそじゃ。何がうそじゃよ。」

彼は、目を大きくして、あたりをしきりに見回しながら、逃げ場はないかと気をあせった。額には、つめたい汗がわいて来る。手もふるえが止まらない。が、周囲は、どこを見ても、むごたらしい生死の争いが、盗人と侍との間に戦われているばかり、静かな月の下ではあるが、はげしい太刀音と叫喚の声とが、一塊になった敵味方の中から、ひっきりなしにあがって来る。――しょせん逃げられないとさとった彼は、目を相手の上にすえると、たちまち別人のように、凶悪なけしきになって、上下の齒をむき出しながら、すばやく鉾をかまえて、威丈高にののしった。

「うそをついたがどうしたのじゃ。阿呆。外道。畜生。さあ来い。」

こう言うことばと共に、鉾の先からは、火花が飛んだ。中でも屈竟な、赤あざのある侍が一人、衆に先んじてかたわらから、無二無三に切ってかかったのである。が、もとより年をとった彼が、この侍の相手になるわけはない。まだ十合と刃を合わせないうちに、見る見る、鉾先がしどろになって、次第にあとへ下がってゆく。それがやがて小路のまん中まで、切り立てられて来たかと思うと、相手は、大きな声を出して、彼が持っていた鉾の柄を、みごとに半ばから、切り折った。