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びぜんめいきゅうでん

備前名弓伝

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《備前名弓伝(びぜんめいきゅうでん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 頁

青空文庫

一

一

備前の国岡山の藩士に、青地三之丞という弓の達人がいた。食禄は三百石あまり、早く父母に死別したので、伯父にあたる青地三左衛門の後見で成長した。十九歳の時家督を相続、少年の頃から弓の巧者だったので、お弓組にあがって勤めていた。三之丞は幼少の頃からおっとりした性質で、怒ったという顔を見せたことがないし、かつて人と喧嘩口論をした例がない。おまけにひどく口数のすくない男で、つまらぬ世間ばなしなどにはいつも横を向いている。

「珍しい上天気、いい日和でござるな」「……されば」「いや、妙な雲が見える、降るかも知れぬが、どうであろう」「……されば」「ここで降られては鷹狩りのお供が辛い、どうか二三日もたせたいものでござるな」「……されば」と云った調子である。さして大事な話でないものは、大抵これで片付ける。これをくどくやると、しまいには「されば」も云わずに黙ってしまう。それでも別に無愛想だとも云われず、上役にも下役にも評判がよかったのは、生れつきの人徳があったのに違いない。

これと面白い対照なのは伯父の三左衛門であった。三左衛門は、「雷三左どの」とあだ名がついていて、性急で早合点で、すこしもゆったりしたところがない。