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ぼくのむかし

僕の昔

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《僕の昔(ぼくのむかし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 3,276 字 · 7 頁

青空文庫

家は明治十四五年ごろまであったのだが、兄きらが道楽者でさんざんにつかって、家なんかは人手に渡してしまったのだ。兄きは四人あった。一番上のは当時の大学で化学を研究していたが死んだ。二番目のはずいぶんふるった道楽ものだった。唐棧の着物なんか着て芸者買いやら吉原通いにさんざん使ってこれも死んだ。三番目のが今、無事で牛込にいる。しかし馬場下の家にではない。馬場下の家は他人の所有になってから久しいものだ。

僕はこんなずぼらな、のんきな兄らの中に育ったのだ。また従兄にも通人がいた。全体にソワソワと八笑人か七変人のより合いの宅みたよに、一日芝居の仮声をつかうやつもあれば、素人落語もやるというありさまだ。僕は一番上の兄に監督せられていた。

一番上の兄だって道楽者の素質は十分もっていた。僕かね、僕だってうんとあるのさ、けれども何分貧乏とひまがないから、篤行の君子を気取って描と首っ引きしているのだ。子供の時分には腕白者でけんかがすきで、よくアバレ者としかられた。あの穴八幡の坂をのぼってずっと行くと、源兵衛村のほうへ通う分岐道があるだろう。あすこをもっと行くと諏訪の森の近くに越後様という殿様のお邸があった。