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げんろくじゅうさんねん

元禄十三年

林 不忘

線上閱讀林 不忘《元禄十三年(げんろくじゅうさんねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,586 字 · 42 頁

青空文庫

刺し殺したいほど、吉良への憎悪に燃えた。

「ただ、何だ――それなら、なぜ肯かれぬ、と申すのじゃ。」

蒲団にすわった吉良は、みょうに白けた顔で、眼が、異常に光っていた。

はらわれた手のやり場に困って、襟をかき合わせた。

乾いた音だった。

「妾が――意に添うも添わぬもないはず。理由を申してみい。」

いつものように、吉良の就寝を見て、自室へ引きとろうとしていた糸重だった。軽くあらそった衣紋の崩れをなおして、夜着の裾のほうに、遠くすわっていた。

「わけと申して、べつに――。」

吉良は、何気なくよそおっていた。が、老人らしくもなく、手出しして拒ねられたという照れ臭さが、寝巻きの肩のあたりに見られた。

しかし、お糸は、はじめから妾に来たのだった。妾に、こんな手間ひまのかかる女が、あってもいいものだろうか、と、吉良は、不思議な気がした。ばかばかしく思った。

いっそ暇を――が、そうもならなかった。それは、たんに未知へのあこがれかもしれなかったが、いつの間にか、愛着らしいもののできているのも、いなめなかった。平茂と、本人のお糸への、意地もあった。

何だか、考えこんでいる吉良を見ていて、糸重は、良人の辰馬の顔を思い出してみた。