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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁
天野北山は黙っていた。
長崎仕込みの立派な蘭医、駿河守の侍医ではあったが、客分の扱いを受けている。江戸へ出しても一流の先生、名聞狂いを嫌うところからこのような山間にくすぶってはいるがどうして勝れた人物であり、いかに相手が金持ちであろうと人格の卑しい紋兵衛などの附き人などに成る人物ではない。しかし礼を厚うしてほとんど十回も招かれて見れば放抛って置くことも出来なかったので時々見舞ってやっていた。しかしもちろん急抱えの剣術使いや浪人とは違う。否だと思えばサッサと帰り、いけないと思えば投薬もしない。
「北山先生薬くだされ!」
「ならぬ!」
と北山は抑え付けた。
一二
「あなたの病気は薬でも癒らぬ。懺悔なされ懺悔なされ。そうしたらすぐにも癒るであろう」
「懺悔?」と紋兵衛は恐ろしそうに、「何もございません、何もございません! 懺悔することなどはございません!」
「嘘を云わっしゃい!」
と北山は嘲るようにたしなめた。「懺悔することのないものが何んでそのように神経を起こし、何んでそのように恐れるか。……そなた、無分別の若い頃に悪いことでもしはしないかな?」