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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

で室の中は静かであった。柵は三十を過ごしていた。とはいえ艶冶たる風貌は二十四、五にしか見えなかった。大変窶れていたけれど美しい人の窶れたのは芙蓉に雨が懸かったようなものでその美しさを二倍にする。几帳の蔭につつましく坐り開け放された窓を通して黄昏の微芒の射し込んで来る中に頸垂れているその姿は、「芙蓉モ及バズ美人ノ粧ヒ、水殿風来タッテ珠翠香シ」と王昌齢が詠ったところの西宮の睫を想わせる。

幼い妹の久田姫がこのお部屋も嫌いですのと姉に訴えたのはもっともであった。館造りの古城の一室、昔は華やかでもあったろう。今は凄じく荒れ果てて器具も調度も頽然と古び御簾も襖も引きちぎれ部屋に不似合いの塗りごめの龕に二体立たせ給う基督とマリヤが呼吸く気勢に折々光り、それと向かい合った床の間に武士を描いた二幅の画像が活けるがように掛けてあるのが装飾といえば装飾である。

久田姫は立ち上がった。静かに画像の前へ行き二人の武士を見比べたが、

「ねえお姉様、何故このお二人は、こうも恐ろしいお顔をして向かい合っているのでございましょう。お互いの眼から毒でも吹き出しお互いの眼を潰し合おうとして睨み合っているようではございませぬか。