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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁
どこかで地面を掘っている。鋤にあたる小石の音が、コチンコチンと聞こえて来る。
薬草園を通り過ぎると、館の裏座敷の前へ出た。明るい灯火が障子に映え、人の話し声も聞こえている。
「さあどうぞお上がり遊ばしませ」
云いながら女が先に上がり、スラリと障子を引きあけた。何んとなく身の締まる思いがして、葉之助は一瞬間躊躇したが、覚悟をして来たことではあり、性来無双の大胆者ではあり云われるままに座敷へ上がった。
「しばらくご免を」と挨拶をし女は奥へ引き込んだ。
敷物の上へ端然と坐り、葉之助は部屋の中を見廻した。床に一軸が懸かっていた。それは神農の図であった。丸行灯が灯っていた。火光が鋭く青いのは在来の油灯とは異うらしい。待つ間ほどなく現われたのは、剃り立ての坊主頭の被布を纏った肥大漢で、年は五十を過ぎているらしく、銅色をした大きな顔は膏切ってテカテカ光っている。
「愚老、大槻玄卿でござる」こう云って坐って一礼したが、傲岸不遜の人間と見え、床の間を背にして坐ったものである。
「家人をお助けくだされた由、あれは小間使いとはいうものの、愚妻の縁辺でござってな、血筋の通った親類端、ようお助けくだされた。