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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

そうして葉之助と協力し、その国を大いに発展させよう。そうして小うるさい社会と人間から、すっかり逃避することによって、楽々と呼吸を吐こうではないか」と。

私の故郷は信州諏訪、八ヶ嶽が東南に見える。

去年の秋にたった一人で、笹の平へ行って見た。天保時代の建物たる宗介天狗の拝殿も、窩人達の住居もなかったが、その礎とも思われる、幾多の花崗石は残っていた。

その一つへ腰を下ろし、瞑想に耽ったものである。

秋の日射しの美しい、小鳥の声の遠く響く、稀に見るような晴れた日で、枯草の香などが匂って来た。

「静かだなあ」と私は云った。

不幸な恋をした山吹のことが、しきりに想われてならなかった。

多四郎の不純な恋に対する、憤りのようなものが湧いて来た。

「浮世の俗流というものは全くもって始末が悪い。天狗の甲冑を盗むばかりか、乙女の心臓をさえ盗むんだからなあ」などと感慨に耽ったりした。

(完)