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とねのしゃくあゆ
利根の尺鮎
佐藤 垢石
線上閱讀佐藤 垢石《利根の尺鮎(とねのしゃくあゆ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,342 字 · 13 頁
水温む春がくれば、はやを釣った。夏がくれば、鮎を釣った。秋がくれば、木の葉に親しんだ。冬がくれば、寒寄りのはやが道糸の目印につけた水鳥の白羽を揺する振舞に、幼い胸をときめかした。
大洪水がくると、上流から大木が流れてきた。家も、馬も流れてきた。初夏の夜、しめやかな雨が降ると、東西の微風が訪れて、利根の瀬音を寝ている私の耳へ伝えてきた。その瀬音が忘れられぬ。
真夏がくると、川千鳥が、河原の上を舞った。千鳥は河原の石の下へ卵を生むのである。少年の私は、孵ったばかりの千鳥の子を追って、石に躓き生爪を剥がして泣いたことも、二度や三度ではない。
秋がくると、来た風が流れの面を、音もなく渡った。私は、その小波を佗しく眺めた。
冬。利根川は、うら枯れた。
春になれば、私の村は養蚕の準備に忙しかった。母と姉は、水際に近い底石に乗って、蚕席を洗った。洗い汁の臭みを慕って、小ばやの群れが集まってきた。四月の雪代水は、まだ冷たい。冷水に浸った母と姉の脛が真紅に凍てた色は、まだ記憶に新ただ。
もう、下流遠く下総国の方から、若鮎が遡ってくる季節は、間もないことであろう。