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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《前記天満焼(ぜんきてんまやけ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 頁

青空文庫

こう決心をした鉄之進が、迎えるようにして足を止めた時、

「駕籠へ付いておいでなさりませ」

艶めかしい女の声がした。

見れば鉄之進の左側を、一挺の駕籠が通っている。

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「おや」と鉄之進は怪訝そうにした。

「誰に云ったのだろう? この俺にか?」

するとまた駕籠から声がした。

「轡の定紋のお侍様、駕籠に付いておいでなさりませ」

「うむ、違いない、俺に云ったのだ」

――いずれ理由があるのだろう。――こう思ったので鉄之進は、素早く駕籠の後を追った。

側に芝居小屋が立っていた。付いて廻ると木戸口があった。と駕籠が入って行く。つづいて宇和島鉄之進が、入って行ったのは云うまでもない。舞台裏へ入る切戸口の前で、駕籠がしずかに下りたかと思うと、駕籠の戸が内から開き、一人の女が現われた。女役者の扇女である。切戸口から内へ入ろうとした時、裏木戸から武士達が入り込んで来た。鉄之進を従けて来た武士達である。

「御心配には及びませんよ」

扇女は鉄之進へ囁いたが、五六人の武士へ眼をやった。

「ねえ皆さん方、見て下さいよ。ここに居られるお侍さんが、この妾の恋しい人さ。……だから虐めちゃアいけないよ。