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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《前記天満焼(ぜんきてんまやけ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 頁

青空文庫

……お前さん達のお頭の、鮫島大学さんへ云っておくれ。女役者の扇女の情夫は、途方もなく綺麗なお武家さんだったとね。……何をぼんやりしているんだよ。日中狐につままれもしまいし。……早くお帰り早くお帰り!」

鉄之進の方へ身を寄せたが、

「いらっしゃいまし、妾の部屋へ」

裏舞台へ入り込んだ。

楽屋入りをする道程に、扇女は鉄之進を助けたのであるが、たしかもう一人扇女のために、助けられた人間があるはずである。

その助けられた人間が、ちょうどこの頃江戸の郊外に、つく然として坐っていた。

ここは隅田の土手下である。

「十から八引く十一が残る! 今度こそとうとうこんなことになった。何しろ俺という岡引が、悪党に追われて逃げこんだからなあ。由来岡引というものこそ悪党を追っ掛けて行くものじゃアないか。世は逆さまとぞなりにけり」

丁寧松事松吉である。

背後に大藪が繁っていて、微風に枝葉が靡いていた。ここらは一面の耕地であったが、耕地にはほとんど青色がなかった。天候不順で五穀が実らず、野菜さえ生長たないからであった。所々に林がある。それにさえほとんど青色がなく、幹は白ちゃけて骨のように見え、葉は鉄錆て黒かった。