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ぜんきてんまやけ
前記天満焼
国枝 史郎
線上閱讀国枝 史郎《前記天満焼(ぜんきてんまやけ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 頁
「よし」と云うと岡引の松吉は、亀島橋をトッ走った。
中与力町が眼の前にあって、組屋敷が厳しく並んでいる。
「しめたしめた」とそっちへ走った。
組屋敷の一画へ出られたら、松吉は安全に保護されるだろう。
だが運悪く出られなかった。ぶちこわしの一団が大濤のように、その方角から蜒って来て、すぐに松吉を溺らせて、東北へ東北へと走ったからである。
掻き分けて出ようと焦ったが、人の渦から出られそうもない。
で、東北へ東北へと走る。
日本橋の区域も霊岸島と負けずに、修羅の巷を現わしていた。
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しかしさすがに蔵前へ迄は、ぶちこわしの手が届かないと見え、寧ろひっそりと寂れていた。
と云うのはぶちこわしの噂を聞き込み、ここらに住んでいる大商人達が、店々の戸を厳重にとざし、静まり返っているからである。
ふと現われた人影がある。
「とうとう大事になってしまった」
他でもない宇和島鉄之進であった。
「江戸中騒乱の巣となろう。死人も怪我人も出来るだろう。霊岸島の方は火の海だ。八百八町へ飛火がしよう。と、日本中へ押し広がる。京都、大阪、名古屋などへも、火の手が上るに相違ない。幕府の有司のやり方が、不親切だからこんなことになる。