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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《剣侠(けんきょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 頁

青空文庫

源女は又も眼を閉じて、衣装籠に身をもたせていた。

眼の縁辺りが薄く隈取られ、小鼻の左右に溝が出来、見れば意外に憔悴もしてい、病んででもいるように疲せてもいた。

(ひどく苦労をしたらしい)

そう思うと浪之助の心持が和み、女を憐れむ情愛が、胸に暖かく流れて来た。

「お組、いままでどこにいたのだ?」

「旅に……旅に……諸方の旅に」

「旅を稼いでいたというのか?」

「いいえ。……でも……ええ旅に。……」

言葉が濁り曖昧であった。

「旅はいずこを……どの方面を?」

「どこと云って、ただあちらこちらを」

「ふむ。……一座を作って?」

「いいえ、一人で……でも時々は……一座を作っても居りました」

やはり言葉が濁るのであった。

「なぜそれにしても旅へ出ますと、わしに話してはくれなかったのだ」

「…………」

源女は返辞をしなかった。

睫毛が顫え唇の左右が、痙攣をしたばかりであった。

窓から西陽が射し込んで来て、衣桁にかけてある着替えの衣装の、派手な模様を照らしていた。

二三度入り口の暖簾をかかげて、一座の者らしい男や女やが、顔を差し込んで覗いたが、訳あるらしい二人の様子を見ると、入ろうともせず行ってしまった。