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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《剣侠(けんきょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 頁

青空文庫

「……」澄江の眼には当惑らしい表情が出た。

「打とうと思えば小父様など、たった一打ち手間暇はいらぬ。……打たずにかえって打たれたは……澄江さま、貴方のためじゃ」

「…………」

その時屋敷の縁の上から、

「おいで、こら、何をして居る」

老武士が呼んで手を拍った。

「羊羹を切ったぞ。おいでおいで」

「はい」と云うと陣十郎へ背を向け、澄江はそっちへ小走った。

「ちと痛い」と右の手を揉み、

「あの老耄、フ、フ、何を……が、澄江には恩をかけた。……この手で……」

と口の中で呟きながら、陣十郎という若い武士は、屋敷の方へそろそろと歩いた。

3

(どうにも変な試合だったよ)

浪之助はそんなことを思いながら、両国の方へ歩いて行った。

(それにしてもちょっと美い娘だった)

こんなことをチラリと心の隅で思い、独り笑いをもらしたりした。

年はまだ二十三歳、独身で浪人であった。

親の代からの浪人で、その父は浪之進といい、信州高島の家臣であったが、故あって浪人となり、家族ともども江戸に出た。貨殖の才がある上に、信州人特有の倹約家で、金貸などをひそかにやり、たいして人にも怨まれないうちに、相当に貯めて家屋敷なども買い、町内の世話をして口を利き、武士ではあったが町人同然、大分評判のよくなった頃、五年ほど前にポックリ死に、母親はその後三年ほど生きたが、総領