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カトルーズのよる
十四日祭の夜
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《十四日祭の夜(カトルーズのよる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 1,105 字 · 3 頁
いつもは十二時過ると扉もおとなしく片開きにしてある入口が、今夜はさあっと開いたままで、煌々と燈火のついた広間に人影もない。一階二階と正面階段をゆっくりのぼってゆくと、何処にも人影はないのに燈火は廊下毎に明るく惜しげない光の波の端から端までを照らしている。祭の夜にひっ攫われたような荒っぽさと寥しさがホテルの建物じゅうに満ちているところを追々のぼって五階の廊下へ出たら、ここの廊下も同じく隈ない明るさにしーんとしずまって、人気もない沢山のドアの前へ、どこの洒落もののいたずらか、男と女との靴が、一組一組、みんなちんばに、てんでばらばらな途方もない片方ずつによせあつめて散らかされている。ドアの内がひっそりとしているだけに、華奢な女靴と男靴とのごちゃまぜは何ともいえない諧謔があって、悪意なくこみ上げて来る笑いをおさえることが出来ない。六階はどうだろうと物ずき心を動かされ、すこし急いでのぼって見たら、やっぱり! ここにも同じことが起っている。それだのに、何処をさがしたって、廊下じゅう人っ子一人姿は見えず、自分の部屋のドアの前に立ってゆっくり鍵でそこをあけて入ったら、夏のほてりがいくらかこもりながらも涼しい風が暗い室へ入って来る。