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ちよじのおどろき
千代次の驚き
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《千代次の驚き(ちよじのおどろき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,413 字 · 19 頁
思いきって働くがいい、けれど売っちゃいけない。それだけが、君に対する僕の望みだ。とそうくり返し仰言るんです。それがへんに、あたしの胸を刺しました。あたしいつのまにか泣きだして、村尾さんの腕にきつく抱かれていました。息苦しくなって、自分に返ると、何だか極りわるい気がしました。そんな気持になったことは、近頃にないことです。
そのようなことがあったり、また何よりも、いちばん度々逢ってたものですから、あたしいつか しらず、村尾さんを頼りにするようになっていきました。といっても、心から好きになったのとはちがいます。お父さんの教えは、りっぱに守ってるつもりでした。芸者をしている間は、どんな人でも、ほんとに好になってはいけない、とそう決心していました。そして、やはり、いくらか我儘の出来る地位にはなっていましたけれど、前からの義理あいで、時には身体で稼ぐことも続けていました。それも、あたしにとっては、働くことの一つでした。村尾さんとのそうしたことも、働くことの一つでした。ただ、働くのはよいが売ってはいけない、というその区別が、何だか胸を刺すようでいて、それもはっきり分りませんでした。