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なんぼくのとうかいどうよつやかいだん

南北の東海道四谷怪談

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《南北の東海道四谷怪談(なんぼくのとうかいどうよつやかいだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,555 字 · 34 頁

青空文庫

お岩は歯をくいしばった。

「何と云う情ないことを、こんな可愛い児まであるに」

「何が可愛い、そんなに可愛けりゃ、くれてやるから伴れて往け。きさまのような不義者は、一刻もおくことはできん、さっさと出て往ってくれ」

「何と申します、いつ私が不義をいたしました」

「しらばくれてもだめだ、きさまは彼の按摩と不義をしているのだ」

「あんまりな、そりゃ、あんまりでござります」

お岩は泣きくずれた。伊右衛門はふと思い出したことがあった。

「そうは云っても、我鬼まで出来たことじゃ」きろきろと四辺へ眼をやり、落ちている櫛を見つけてそれを取り、「良いものがある、これでも持って往こうか」

お岩は其の手にすがりついた。

「あ、それは母さんの、形見の櫛、そればっかりは、どうぞ」

伊右衛門はじろりと見た。

「いけねえのか」

「そればっかりは、どうぞ」

お岩は一所懸命であった。伊右衛門はしかたなく櫛を投げだした。

「それじゃ、何か出せ、急に金のいることができた」

出せと云っても金になるような物は、これまで全部持ち出しているのであった。お岩は暫く考えていたが、思いだしたようにして起ちあがった。

「それでは、私の」