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なんぼくのとうかいどうよつやかいだん
南北の東海道四谷怪談
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《南北の東海道四谷怪談(なんぼくのとうかいどうよつやかいだん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,555 字 · 34 頁
喜兵衛は癪にさわった。
「此の女めは、何をうっかりしておる、早く出さぬか」
お袖がやっと顔をあげた。
「あなたは、高野の御家中でござりますね」
「さようじゃ」
「それなれば、売られませぬ」
「なんじゃと」
「御意にいらぬ其の時には、どのような祟があるかも知れませぬ、他でお求めになるがよろしゅうございます」
尾扇が喜兵衛の後からぬっと出た。
「こいつ出すぎた女め、そのままにはさしおかぬぞ」
傍へ来ていた藤八五文の薬売の直助が中に入った。
「まあ、まあ、どうしたものだ、そんな愛嬌のない」それから尾扇に、「これは昨日雇われたばかりで、楊枝の値段もろくに判らねえ女でございます、どうかお気にささえないで」
喜兵衛は尾扇を抑えた。
「打っちゃって置くがいい、参詣のさまたげになる」
喜兵衛はお梅たちを促して往ってしまった。直助は其の後でお袖にからんだ。
「お袖さん、大事の体じゃないか、つまらんことを云ってはならんよ。それにしても考えてみれば、四谷左門の娘御が、楊枝店の雇女になるなんどは、これも時世時節と諦めるか。申しお袖さん、おめえもまんざら知らぬこともあるまい、いっそおれの情婦になり女房になり、なってくれる気はないか」