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よしわらしんわ

吉原新話

泉 鏡花

線上閱讀泉 鏡花《吉原新話(よしわらしんわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 37,157 字 · 75 頁

青空文庫

(催促をせずと可うござる。)

と澄まし返って、いかにも年寄くさく口の裡で言った、と思うと、

(やあ、)

と不意に調子を上げた。ものを呼びつけたようだっけ。幽に一つ、カアと聞えて、またたく間に、水道尻から三ツのその灯の上へかけて、棟近い処で、二三羽、四五羽、烏が啼いた、可厭な声だ。

(カアカアカア――)

と婆々が遣ったが、嘴も尖ったか、と思う、その黒い唇から、正真の烏の声を出して、

(カアカア来しゃれえ! 火の車で。)

と喚く、トタンに、吉原八町、寂として、廓の、地の、真中の底から、ただ一ツ、カラカラと湧上ったような車の音。陰々と響いて、――あけ方早帰りの客かも知れぬ――空へ舞上ったように思うと、凄い音がして、ばッさりと何か物干の上へ落ちた。

(何だ!)

と言うと、猛然として、ずんと立って、堪えられぬ……で、地響で、琴の師匠がずかずかと行って、物干を覗いたっけ。

裸脱ぎの背に汗を垂々と流したのが、灯で幽に、首を暗夜へ突込むようにして、

(おお、稲妻が天王寺の森を走る、……何じゃ、これは、烏の死骸をどうするんじゃい。)と引掴んで来て、しかも癪に障った様子で、婆々の前へ敲きつけた。