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きらこうずけのたちば

吉良上野の立場

菊池 寛

線上閱讀菊池 寛《吉良上野の立場(きらこうずけのたちば)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,369 字 · 24 頁

青空文庫

「吉良上野介殿とお見受け申します。われわれは元浅野内匠頭の家来――大石内蔵助良雄以下四十六名の者でありますが、先年は不慮のことにて……」

と、雪の中に手をついて名乗りかけた。

(なるほど、これだ。大石は、やはり大石だ。なぜ、あのとき江戸におらなんだ。大石がおれば、わしもお前もこんなことにならずに済んだのだ。大石だけが、わしの心をいくらか知っている。そうだ、すべてが不慮のことなのだ。わしのばかばかしい災難なのだ。災難とあきらめて討たれてやろうか)

上野が、混乱した頭で、自分勝手なことを考えていると、大石は何かいい終って、短刀を差し出すと、

「いざ!」といった。

短刀を突きつけられると、上野の頭に、わずか萌していたあきらめは、たちまちまた影をかくした。自分の立ち場も言い分も、敵討というもののために、永久にふみにじられてしまう怒りが、また胸の中に燃え上っていた。

彼は、浅野主従、世間、大衆、道徳、後世、そのあらゆるものに刃向って行く気持で、その短刀を抜き放ってふらふらと立ち上った。

「未練な!」

「卑怯者め!」

(何が卑怯か、わしには正しい言い分があるぞ!)そう思いながら、あてもなく短刀をふり回していると、