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るそんのつぼ

呂宋の壺

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《呂宋の壺(るそんのつぼ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 18,375 字 · 36 頁

青空文庫

一

一

慶長のころ、鹿児島揖宿郡、山川の津に、薩摩藩の御朱印船を預り、南蛮貿易の御用をつとめる大迫吉之丞という海商がいた。

慶長十六年の六月、隠居して惟新といっていた島津義弘の命令で、はるばる呂宋(フィリッピン)まで茶壺を探しに出かけた。そのとき惟新は、なにかと便宜があろうから、吉利支丹になれといった。吉之丞は長崎で洗礼を受けて心にもなき信者になり、呂宋から柬埔塞の町々を七年がかりで探し歩いたが、その結末は面白いというようなものではなく、そのうえ、帰国後、宗門の取調べで、あやうく火焙りになるところだった。寛永十一年と上書した申状には、吉之丞のやるせない憤懣の情があらわれている。

惟新様申され候には、呂宋え罷越、如何にしても清香か蓮華王の茶壺を手に入れるべし、呂宋とか申す国は吉利支丹の者どもにて候に付き、この節は吉利支丹に罷成り、あいさつといたし、御用等相達すべきよし仰せ聞けられ候故、拙者、申し候は、御意とは申しながら、好き申さざる宗旨に候へ共、何事も奉公の儀に御座候故、上意に任せ、此の節は吉利支丹に罷り成るべきよしお受け仕り候。云々。

吉之丞の父の吉次は松永久秀の家臣で、主家断絶後、牢人していたのを島津貴久に見出され、貴久の言付けで、長崎に船屋敷をおいて海外貿易をはじめるようになったのである。