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ちじょう
地上
島田 清次郎
線上閱讀島田 清次郎《地上(ちじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 頁
芸ばかりで立ってみせる、ひとかどの名妓となってみせる、という意志が彼女を引き緊め、彼女の持つ真価値を十分に生かすことに力があった。彼女は無論「芸ばかり」で勤めることは不可能であった。朝、寝乱れ姿でお光のところへ「小母さん」と駈け込んで、仕立物に精出しているお光の膝に俯伏して初めてなめた地獄の苦痛を訴えたことも遠い時の彼方のこととなってしまった。ただ彼女にとってはそれは官能の満足とならずに精進の鞭撻となった。彼女は唄うことは上手でなかったが、三味線、琴、踊り、ことに鼓は、師匠も名人の素質があると賞め、彼女自身にも自信があった。彼女は辛い勤めのあとの悲しい想いを、凛然たる、は、おえ、よお! の懸声と森厳な鼓の音色とによって解脱することが出来た。そしてお光も針仕事には慣れて、街の人々にもなじみが深くなって来ていた。お光と冬子とのあの夜以来結ばれた交りは肉親の叔母と姪でない代りに、精神上の母子よりも深い仲となって来ていた。二人は互いに互いの苦しみを苦しみ合い、互いの楽しみを楽しみ合うことを悦ばずにいられなかった。平一郎にとってこのすぐれた女二人――母と冬子との愛が彼を培うに役立ったことは言うまでもない。