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ちずにないまち

地図にない街

橋本 五郎

線上閱讀橋本 五郎《地図にない街(ちずにないまち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,139 字 · 32 頁

青空文庫

とか、そんな風に陰の後援を自然にやってくれて、それが第十軒目では、

「まあ親方ですか、今日はあいにく混んでおりますから、おそまつですけれどこれで勘弁なすって――」

と何もいわぬ先から『朝日』一個を渡されたというのである。以来老人は煙草が欲しくなれば、頃をはかってその十二軒の――どれかの射的屋へ顔を出して、「うたすかね!」と朝日なりバットなりをもらって来るのだというのである。

また湯銭にしても、それが十銭や十五銭のことなら、どこにでも盛り場というものにはそんな金が落ちてる穴があるそうである。拾得物がどうのこうのとやかましくいえば限りがないが、放っておけば腐ってゆく金を、ただ拾い出して来るのになんの咎があろう、使われてこそ金自身としては本望ではあるまいか――とそんな話のうちに、二人は目的のところへ来てしまった。

「いいか、真っ直ぐに歩いて、黙って、金を払って食うつもりで食うんだぜ」

老人は一言注意して、寺内氏の先に立って、標札も何もない板塀の門から、堂々と中に入って行った。まだほの暗いその門へは、法被姿や巻脚絆や、いずれは労働者と見える連中が、同様に一人ふたり連れ立ってやって来ていた。