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ほうおんき

報恩記

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《報恩記(ほうおんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,803 字 · 30 頁

青空文庫

の薔薇や百合の花に、満ち渡るような心もちがします。

忘れもしない二年前の冬、ちょうどある大雪の夜です。わたしは博奕の元手が欲しさに、父の本宅へ忍びこみました。ところがまだ囲いの障子に、火影がさしていましたから、そっとそこを窺おうとすると、いきなり誰か言葉もかけず、わたしの襟上を捉えたものがあります。振り払う、また掴みかかる、――相手は誰だか知らないのですが、その力の逞しい事は、到底ただものとは思われません。のみならず二三度揉み合う内に、茶室の障子が明いたと思うと、庭へ行燈をさし出したのは、紛れもない父の弥三右衛門です。わたしは一生懸命に、掴まれた胸倉を振り切りながら、高塀の外へ逃げ出しました。

しかし半町ほど逃げ延びると、わたしはある軒下に隠れながら、往来の前後を見廻しました。往来には夜目にも白々と、時々雪煙りが揚るほかには、どこにも動いているものは見えません。相手は諦めてしまったのか、もう追いかけても来ないようです。が、あの男は何ものでしょう? 咄嗟の間に見た所では、確かに僧形をしていました。が、さっきの腕の強さを見れば、――殊に兵法にも精しいのを見れば、世の常の坊主ではありますまい。