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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
線上閱讀織田 作之助《夜の構図(よるのこうず)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 頁
伊都子は半泣きの顔で、微笑むと、ちょっと頭を下げて、つれの二人と一緒に雨の中へ出て行った。
信吉もだまって頭を下げただけだった。
回転ドアを押す時、伊都子はちらと振り向いた。
信吉はもう一度頭を下げようとしたが、丁度その時、伊都子の許嫁がキッと信吉の方を睨みつけた。信吉はふと眼をそらした。
そして再び見ると、もう伊都子の姿は見えなかった。
許嫁の視線は信吉の胸をチクリと刺して新たな悔恨があった。が、ふと、あの男がやがてあの伊都子の亭主となって、伊都子のなやましい腋臭のある体を抱くのかと思うと、伊都子が四五三号室のベッドの上で見せた数々の肢態や、燃えるような愛撫や「須賀さん! 須賀さん!」と呼びつづけていた絶え入りそうな声が、なまなましく想い出されて、
「もうあの娘には二度と会うこともあるまい……」
という取りかえしのつかぬ想いが、かえって悔恨をすくって、何か甘い気持だけが残り、信吉はふと右の手を鼻の先へ持って行った。
そして、伊都子の匂い……というよりもむしろ、人間の浅ましい交渉の匂いのかすかな残り香を嗅いでいると、女のあわれさが、はや信吉を憂愁の感覚でとらえてしまった。