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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

線上閱讀横光 利一《夜の靴(よるのくつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 頁

青空文庫

それに自分が借りられると、米がないから出せぬというのは、実行が伴なわぬじゃないか。自分の食うべきものまでやってこそ、人にも出せといえるのだ。自分だけが損をせず、村に完納させた名誉だけを取ろうとするのは、虫が良すぎるというものだ。誰もこの村で食えないものは、一人もなかった。」

「そうだ、そんな貧乏なものはいなかった。」とまた一人がいう。

「それならば、自分だけ損をしないように工夫するのは不法というものじゃ。人に損をさすなら、自分もそれだけ損するが良いのじゃ。」

そこへ、主婦の清江が仏の口を聞きに行って帰って来る。また実家の組合長が矢の表面に立たされていると感じたか、炉の傍へは近よらない。

農家のものらは、少ない言葉で抜きさしならぬ理窟をいう。自分の領分以外は世界のない綿密さだ。遠い過去からの集団の結集した総能力の中へ埋没した訓練で、自分の手がけた土地の実状に関しては、厳密な設定と等しい計算力を持っている。この頭の良さは、小さな米粒の点と、田の線からなる幾何学とをせずにはいられぬ代代の習慣により、自然に研ぎ磨かれて来ているためであろう。農家を愚鈍と思うものは、ここの言葉の不必要さを知らずに愚鈍としてすます、習慣の誤りだ。