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ほんやくちぎのせつ
大尉の娘
神西 清
線上閱讀神西 清《大尉の娘(ほんやくちぎのせつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 10,030 字 · 21 頁
鴎外の文章は、意味と色とトオンとのつながりに慎重きわまる吟味を重ねた挙句に選び当てられた、的確きわまる語彙を素材とした揺るぎない構築物なのである。一たい誰にあの『魚玄機』が書けるというのであろうか。一たい誰に『即興詩人』が書けるというのだろうか。いや、論者の考えているのは鴎外の晩年ちかい枯淡な味わいの訳文なのであろうが、その淡々として水のごとき行文を支えているものはやはり、昔の鴎外の厳正な風格にほかならない。あの平明な口語文はやはり彼独特のもので、今日のわれわれの到底使いこなし得るものではない。その意味であれは紛れもなく一種の文語なのである。これほどの見分けもつかぬような人は、文学なんかお廃めなさいと申しあげるのほかはないのである。
それはそうとして、飜訳の生理というと、まず論理を生かす道としての表現のことが考えられる。この表現上の差別という厄介千万なものをなくすためには、知性の改造という非常に遥なイメージを描かなければならない。野上氏もこの点には触れておられるし、それが晩かれ早かれ克服されなければならない懸案であることには僕も至極同感なのだが、仮に何時の日かこの遠いイメージが実現されたにしても、案外ごく限られた可能性をしか齎しては呉れそうもない――という気が強くするのである。