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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 頁

青空文庫

あれほどに写生を主張していた男が、船から上ると早々模写をはじめたことは、多少の皮肉でないこともないが、そうかといって、写生主義者が模写をして悪いという理窟もありますまい。つまり、よくよくこの仇十洲の回錦図巻に惚れこんだればこそ、万事を抛って模写にとりかかったものと見るほかはない。

仇十洲の回錦図巻の模写に、田山白雲が寝ることも、飲むことも、忘れていると、

「今晩は……」

そこへ、極めてものなれた女の声。

「はいはい」

田山白雲も筆を揮いながら洒落に答えますと、

「入ってもようござんすか」

「ようござんすとも」

「そんなら入りますよ」

「おかまいなく」

白雲は始終描写の筆をやすめませんでした。白雲の頭は仇十洲の筆意でいっぱいになっているものですから、障子の外のおとずれなどはつけたりで、調子に乗って、うわの空で返事をしてみただけのものです。

「御免下さい」

障子をあけて、そこに立ったのは、スラリとした牡丹燈籠のお露です。

「はい」

それでも田山白雲は筆もやすめないし、頭を後ろへまわして、来訪に答えるの労をも惜しんでいる。

「御勉強ですね」

「ええ、御勉強ですよ」

「お邪魔になりゃしなくって?」