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だいぼさつとうげ

大菩薩峠11

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠11(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 368,567 字 · 720 頁

青空文庫

「何ですか」

と米友が円い眼を笠の下から、こちらに向けました。

「あの、海まではまだよほど遠いんでございますか」

「海ですか」

「はい」

「そうさねえ、海はねえ」

米友が、ちょっと歯切れのいい応答ができないでいると、婦人が、

「鳴海潟というのは、いったい、どちらなのですか」

「え、鳴海ガタですって」

「はい、昔の歌や、詩に有名な鳴海潟は、どちらなんですか」

「鳴海ですか、鳴海は……」

ここで、また米友が応答に窮してしまいました。

実は、鳴海という固有名詞であびせかけられたのに、先手を取られてしまった形で、彼はこの時まで、地名ということに、全く白紙でおりました。そこへ、先方から鳴海と聞かれてしまって、自分の書くべき文字が無くなってしまったという形です。

「おかみさん、ここはいったい、何というところですか」

笑止千万、先方から礼を厚うして、尋ねられた相手に向って、脆くもこちらが兜をぬいで、白旗を立てたような有様で、器量の悪いこと夥しい。

「まあ、お前さん、ここの土地の方ではないのですか」

「はあ、見たらわかるでしょう、おいらは旅の者なんだ」

「そうですか、それは失礼いたしました。