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だいぼさつとうげ

大菩薩峠16

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠16(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 268,946 字 · 520 頁

青空文庫

「ははあ」

と言って、じろりとその帳面に伊太夫は眼をくれたけれども、取り上げて仔細に見ようとするのではありません。しばらく、また眼をつぶっていましたが、やがて、軽く眼を開いて言いました、

「送っておやりなさい」

「えッ」

と、老番頭が少なからず動揺したようです。

「送っておやりなさい、貸金の方を今すぐ取立てて送るというわけにもいくまいから、現金の方はあるだけ、そっくり送っておやりなさい」

「え、承知いたしました」

と老番頭は、主人の命令が絶対的であることをよく心得ています。汗の如しとたとえることは畏れ多いが、この家の代々の慣例では、ぜひ善悪ともに、主人の言葉は絶対でした。そこで老番頭は、非常な狼狽をつくろいながら、委細かしこまってしまって、

「では、現金額と致しまして、取りまぜ五万七千三十両ござりまするが、それをそっくり……」

「そっくり送っておやりなさい、為替に組むなり、馬につけて送るなり、いいようにして届けておやりなさい」

「はっ、承知仕りました」

こうして老番頭は、帳面を抱え直して、また主人の前をすべり出でたのです。

老番頭の命令服従も無条件でありましたが、五万両からの金を、我儘娘のために支出させる伊太夫の命令も無条件でありました。