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だいぼさつとうげ

大菩薩峠19

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠19(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 319,771 字 · 617 頁

青空文庫

手だけは肩にかかって、声はするが姿は見えない。あまりにけったいなる物のたずね方なので、竜之助、怒気を含んで見返ろうとしたが、この背後が磐石のように重い。

「島原へいらっしゃいよ」

「島原へ――」

一方の白い軟らかい手が、自分の左の肩にかかっていたかと思うと、今度は、右の方の眼の前へ一つの白い軟らかい手が現われました。そうして、しかもその軟らかい手が、五体にくっついていないのです。手首から下はありやなしや、その指先だけが、

「島原へ――」

と言って、一方の空を指している。この指したところを見ると、ぼうっと、一隅だけ酸漿のように赤い。

「あれが島原か」

「もう一ぺん、あなたを島原で遊ばせて上げたい」

「…………」

「皆さん、相変らずお盛んでございますよ、芹沢さんは殺されましたが」

「近藤勇は無事か……」

「無事どころか、飛ぶ鳥落す勢いだよ、わは、は、は、は、は」

それは軟らかく白い手首の女の声ではない、豪傑的なすさまじい高笑いでありました。

「誰だ」

と振り切った時は、竜之助の身が軽くなりました。島原へ――指したその手は細く柔らかい手でしたが、高笑いは、決してその手に相応する声ではありませんでした。