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かのうせいのぶんがく

夫婦善哉

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《夫婦善哉(かのうせいのぶんがく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 47,834 字 · 94 頁

青空文庫

が、何度も言うようだが、それだけの気持からではない。俗に惚れこむというあの気持だった。いや、そういえば、たしかにお前にはひとに惚れこませるだけのものはあった。少なくとも、おれのような人間に……。

例えば、お抱え車夫からいきなり新聞を経営するなど、既にただの人間ではない――と思っていたところ、果して施灸巡業を思いついたり、どこかへ姿をくらましてしまったと思っていると、いつの間にか、九尺二間の店ながら、製薬の本舗に収まっている。ちょっと、普通の人間に出来る芸当ではないと、その図々しいといおうか。逞しいといおうか、人並みはずれた実行力におれは惚れこんだのだ。

それに、貧相な面ながら、けいけいたる光を放っているあの眼、ただ世渡りをする男ではないと、おれには興味ふかい眼付きだった。むざむざ見捨てるには惜しい男だと、見込んだのだ。ちっぽけな怒りはすべて忘れて……。

昔、政党がさかんだった頃、自身は閣僚になる意志はてんで無く、ただ、誰かこいつと見込んだ男を大臣にするために、しきりに権謀術策をもちい、暗中飛躍をした男がいたが、良い例ではないけれども、まず、おれの気持もそんなとこだったろうか。