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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
線上閱讀野村 胡堂《奇談クラブ〔戦後版〕(きだんクラブ〔せんごばん〕)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 11,830 字 · 24 頁
それに、極りが悪くて、とても書けそうもないんですもの」
女はそういって、本当に極り悪そうに小首を傾けるのでした。
「暫らくお待ち下さい、直ぐ出来ますから」
東野南次はそう言いながら、古いギシギシする廻転椅子を窓の方に向けて、出来るだけ慎重に、ロマンティックに、そしてういういしく、ほのかな恋を匂わせながら、そのくせ表面は事務的な響きを持つように、書きも書いたり、実に二枚半という長文を書いてしまいました。
「こんなことで如何でしょう」
差出した三枚のレター・ぺーパーを、女客は一気に黙読しております。丸いあごが小刻みに動いて、眼が上から下へ上から下へと走るうち、両頬が次第に上気して、可愛らしい耳朶が――、
「まア、素的ですわ」
読み終って上げた女の眼には、何んと涙さえ浮んでいるではありませんか。
「お気に入りましたか」
東野南次は筆を執ることを覚えてから、此時ほど酬いられた仕事をした事は無かったような気がしました。
「署名をして下さいませんか、――幽里子と――幽はかすかという字、里はさとという字、宛名は要りません、私が書きますから」
女客――幽里子は、三枚の手紙を丁寧に畳むと、手提袋から出した可愛らしい封筒に入れて、静かに立上りました。