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おくのうみ
奥の海
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《奥の海(おくのうみ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,005 字 · 26 頁
、天保四年の飢饉のたたりで水のような粥にも事欠くようになり、大方は米糠や麦糠を糧にし、対屋の梁を伝う、やまかがしや青大将はご馳走のうちで、荘園の上りを持たぬ官務や神祇官は、蕨根や笹の実を粉にして、枯渇した腹の養いにしているという。
烏丸中納言が引婿の納采をあてにして、姫たちを風に吹かせるような真似をしても、とても憎めるわけのものではない。几帳の陰のひとをあわれと思うにつけ、思いは募って、とりとめないほどになった。
◇
その年は気候不順で、四月をすぎても春のけはいも見えず、北風が吹いて、霖雨がつづき、五月の中ごろに霜がおり、池の水が凍った。近江では、稲の穂が葉のうちに隠れて花もかからず、米の値は一升二百文にはねあがって、またもや大飢饉の様相になった。
春の終りごろ、なにやら奥床しい、よく意味のとれぬ歌のたよりがあったきり、中絶えて消息も聞かなかったが、五月の末、思いがけなく、烏丸中納言から迎えの文があった。
金十郎はおそれ畏み、さっそくお館に推参すると、中納言は昼寝でもしていたのだとみえ、気だるそうなようすで、影のようにうそうそと、廊ノ間へ出て来た。