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つまのざ

妻の座

壺井 栄

線上閱讀壺井 栄《妻の座(つまのざ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 頁

青空文庫

会場で顔を合した時にも、野村は素気ない目つきで、何にも語らなかった。もっと親しくしてよい筈ではないか。一言ぐらい閑子について語ってもよいではないか。語らぬことで悟れというわけでもあるまいに、気に入らないなら入らないように、それとなく洩らしてくれてもよい筈だと思った。結婚以来何にもいわない野村、その野村は、今悠吉と何を話しているのか、百歩を離れたミネにはもう聞えないのだが、後ろから見ていると、それは全く他人の姿であった。電車通りに出ると、二人は足をとめてミネを待っていた。ほかの連中の姿はもう見えなかった。ミネは足を早め、まるでここで始めて野村を見かけでもしたように近づいていって、肩をならべた。そして思いきっていった。

「閑ちゃん、どうですか。」

「ああ。」と野村はうなずいて「今肩をこらして困ってるんですがね。頭が痛いとかで、今日は寝てましたが。」

「あら、そうですか。近くにあんまさんないんですか。」

「いや、あるにはありますがね、女だもんでこたえないというんですがね。子供たちが大分もんだりしていましたが。」

まっすぐに夕焼の空に向って話す野村の顔は、油絵にかいた老人のように赤く、疲れた額の皺が目立った。