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たぬきじる
完本 たぬき汁
佐藤 垢石
線上閱讀佐藤 垢石《完本 たぬき汁(たぬきじる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 頁
寒い西風が、村の路に埃をあげて吹いている。
晩飯と、どこの軒下でもいい、一夜の寒さを凌ぐ場所を求めたいと思うと、俄に気が焦ってきた。思いきって、そこの小学校の校長先生を訪れた。ところが校長先生は、つい四、五日前単身奥利根の方から転任してきたばかりだと言って、小ざっぱりした百姓家の第に下宿していたのである。百姓家のお婆さんが第の方へ案内してくれた。
三人は校長先生に、とぎれとぎれに拙い言葉でつぎはぎに、旅に出た由来を申しあげた。そして、最後にこの短冊を買って頂きたいと、恐る恐るお願いしたのである。
ちょうどその頃は、学生の無銭旅行がはやった時代であったから、校長先生は別段驚いた風もない。気軽に、
『そうか――わしも、俳句は好きだ。どれ、みせてごらん』
と、言って短冊をとりあげ、
木瓜剪るや刺の附根の花芽より
と、読んだ。そして、しばらく首を傾げていたが、
『まずいなあ、この俳句は――』
こう言って、眉と眉の間へ皺をよせるのである。
『はい』
私は、面目なかった。顔が、かっと熱くなった。それはただ、俳句の拙かったのが面目なかったばかりではない。この場合、そのために短冊を買って貰うことができなかったら、どうしようかと思ったからだ。