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たぬきじる
完本 たぬき汁
佐藤 垢石
線上閱讀佐藤 垢石《完本 たぬき汁(たぬきじる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 頁
きょう、ちょいと婦人傍聴席を見ると、あのときの記憶の奥さんに似た細面の眼鏡の婦人が一番前側にいた。だが、あれからもう三十年もたつのに、あのときの若さと同じ婦人だ。もし、大口の奥さんであったとしたら、女というものは随分お歳を召さぬなあ、と思った。大口が演説をはじめると、熱心に聞き入っていた。
大口の奇声は議会の名物であったが、きょうの演説をきくと、頭のてんじょく玉から飛びだすような黄色い声でない。これは、甚だ寂しかった。やはり、老年になると声にもさびがつくのかと考えて、そのもの足らなさを隣に腰かけている人に話しかけると、隣の人は、いえあれはいまでも奇声なんですよ。だが、拡声機が上等だから、もう奇声を出す必要がないのでしょう、と答えるのだ。
ところで昔、大口が谷中の方で開いていたという薬屋の店はどうなったろう。
中
大口喜六の質問に答えるので、米内首相が登壇した。米内光政の写真を見ると、護謨人形のような感じがするが、きょうの答弁には何となく弾力がない。それに、国民に対してもっと親切があるのと、もっと決然たるところがあっていいと思う。
あんなぐあいでも、国民の期待に添えるのかと思えるのであるけど、重臣共の眼から見れば、米内は内懐に何か持っているのかも知れないのだ。